2013年は先進国経済の低迷で香港の貿易も不振となったが、世界的な回復傾向を受けて14年の香港経済は前年を上回る成長が見込まれている。米国の量的緩和第3弾(QE3)が1月から縮小されるため、株式市場や不動産市場へのマイナス影響も懸念されているが、金融機関などの予測では楽観的な見通しも多い。中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)で決定された改革深化でもたらされる商機に期待を寄せているもようだ。
特区政府の発表では13年の域内総生産(GDP)伸び率は3%が見込まれているが、14年はおおむねそれを上回る伸び率が予想されている。香港上海銀行(HSBC)アジア太平洋地区顧問の梁兆基氏の見通しによると、14年の香港経済は安定した発展を維持するためGDP伸び率は13年と同水準かそれ以上の3~4%と予測。貿易は最悪だった13年からは改善するものの、欧米の経済回復は依然緩慢であるため輸出伸び率は1けたにとどまるという(12月5日付『文匯報』)。
恒生銀行のリポート「香港経済脈搏」12月号ではGDP伸び率を3.6%と予測。11月に発表した4%との予測を下方修正した。輸出伸び率も6%に改善すると予測しているが、11月に発表した7%から引き下げた。QE3縮小が始まるものの、香港は財政が潤沢であることから利上げによる圧力を緩和でき、他のアジア諸国・地域に比べ先行きを楽観できるという。スタンダード・チャータード銀行の経済リポートでは、14年は世界経済が全面的かつ緩やかに改善するため香港のGDP伸び率は4%と予測。シティバンクは3.4%と予測している。
貿易動向については香港貿易発展局(HKTDC)が12月17日に見通しを発表。主要成熟市場の好転、中国の改革深化などから輸出総額は前年比5.5%増、輸出貨物量は同3.5%増に改善すると予測している。HKTDCの潘永才・世界市場首席エコノミストは「過去数年に比べて14年は主要先進国の安定が拡大する。QE3縮小で新興市場からの資金流出が懸念されているものの、これら新興国は依然商機があり、特に中国本土は引き続き香港の輸出をけん引する」とみており、中国の市場化促進などが香港企業に新たなチャンスをもたらすと指摘した。
特区政府財経事務及庫務局の陳家強・局長は12月9日、「香港経済サミット2014」で講演し、QE3縮小と香港経済への影響について語った。QE3縮小で香港の金利は顕著に上昇するため、資金流出を招き不動産市場と株式市場に影響するという。ただし香港の全体的な投資市場と新規株式公開(IPO)市場は健全で、3中全会の後に本土経済は勢いが表れ、本土企業の資金調達に有利とみる(12月10日付『大公報』)。
香港株式市場については、会計事務所アーンスト・アンド・ヤングが12月16日にリポートを発表。14年の香港でのIPOによる資金調達額は前年比11%増の1800億ドルで世界3位内に入り、新規上場は同4%増の100社を超えると予測。本土の地方銀行の上場や本土のデベロッパーによる裏口上場、地場企業の分離上場などによる恩恵を受けるとみている。
銀行・証券会社の多くも香港株式市場の見通しを楽観。スタンダード・チャータード銀行はハンセン指数が24000~28000ポイント、ハンセンH株指数 が12000~15000ポイントと予測。ただし住宅価格の下落が株価上昇の大きな妨げになると指摘した。
シティバンクは投資展望リポートでハンセン指数 の目標値を25000ポイントに設定。最高で26500ポイントとみている。UBSのリポートではハンセン指数は26800~28000ポイントと予測。ゴールドマンサックスが26500ポイントなど、ハンセン指数 は24000~26500ポイントまで上昇するとの予測が多い。12月半ばの水準から3~14%の上昇となる。
● 住宅価格は10~20%下落へ
不動産市場ではおおむね住宅価格のさらなる下落が予想されている。不動産代理・利嘉閣地産の廖偉強・総裁は12月10日、14年の住宅物件取引の登録数は約6万6000件(前年比26%増)に回復すると予測。ただし12年の8万3000件に比べると約2割少ない。不動産市場の最悪の時期は過ぎたとみており、14年はデベロッパーが引き続き薄利多売戦略で新築物件を売り出し、中古物件も値下げ販売で取引量が増える。住宅価格については大暴落の可能性は小さいとみており5%下落と予想している。
不動産代理・美聯物業の黄静怡・副会長は「政策が変わらない状況の下では住宅価格は下がりやすく上がりにくい」と述べたものの、下落幅はさほど大きくはなく、上半期に5~10%下落と予測。短期的には金利が低く中古物件オーナーにとって売り圧力は大きくないためだ。だが住宅の供給増加に加え、QE3縮小など外的要素が変化すれば中古は2~3年で20~30%下落するという可能性も示した。住宅物件の取引量については、デベロッパーが来年も積極的に売り出すため新築は13年の9000件から約20%増の1万1000件に増加。一方、中古は13年の約4万2000件から4万件以下に減少し、過去19年で最低になると予想している(12月17日付『香港経済日報』『文匯報』)。
不動産コンサルタントのジョンーズ・ラング・ラサールが12月4日に発表した香港不動産市場の見通しでは、最近の新築物件主導の市場傾向が続くが、米国の利上げや特区政府のさらなる不動産市場抑制策も予想されるため住宅市場は低迷し、価格は中小型住宅で10%、高級住宅で10~15%下落するとみている。不動産コンサルタントのコリヤーズ・インターナショナルも同様に優遇依存の新築販売が加速して中古物件価格には圧力となるため、中小型住宅で15~20%、高級住宅で15%下落すると予測している。
ほかにスタンダード・チャータード銀行は米国のQE3縮小と新築住宅優遇販売の影響を受け、住宅価格は最大で10%下落すると予想。シティバンクは10%下落すると予想しており、20~30%下落しない限り政府は不動産市場抑制策を撤回することはないとみている。多くの機関が住宅価格の下落を予測しているものの、平均的には10~20%の調整とみられている。
だがバークレイズは10月に発表したリポートで、住宅価格が08年末から110%上昇していることから15年末までに少なくとも30%下落すると予測。特に世帯収入中位数は09年から伸びが滞っているのに、家賃相場は44%も上昇しているため、今後家賃が上昇する余地は限られ、住宅価格が下落すると説明している。ドイツ銀行もピーク時から50%の下落を予測しているが、そうした暴落の局面になれば不動産市場抑制策を緩和するタイミングとなるだろう。
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